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特集免疫力の基本と最新研究

感染症やアレルギーの発病を左右するのは免疫の?バランス?

 感染症のリスクは日常のあらゆる場所に潜んでいますが、病気になる人もいれば健康な人もいます。微生物学?免疫学を専門とする打矢惠一教授に、免疫の基本と、免疫力を高める物質を開発する最新研究について伺いました。

薬学部 薬学科

打矢 惠一 教授

Keiichi Uchiya

名城大学薬学部卒業後、同大学院薬学研究科に進学。名城大学薬学部助手、東京大学医科学研究所研究員、米国ワシントン大学医学部博士研究員を経て、2020年より現職。2019年、非結核性抗酸菌に関する研究で日本結核病学会の?今村賞?受賞。日本薬学会、米国微生物学会等に所属。

「宿主の免疫力強化による感染予防に関する研究」が「名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト」に選定。

免疫とは、免疫担当細胞が体内に侵入した異物を排除するシステム

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による疾患(COVID-19)やインフルエンザなど、感染症から身を守るには、免疫力を高めることが大切と盛んに言われています。そもそも免疫とは何でしょうか?一言で表すと免疫とは、病原体などの異物から体を守るために備わった仕組み。体内への異物の侵入や、がん細胞の増殖などに対して、白血球の一種であるマクロファージやリンパ球といった免疫細胞が働くことで機能します。
 私たちの周りの空気や土壌といった環境中には、細菌や真菌(カビ)、ウイルスが無数に存在しています。これらは環境中に存在するだけでは問題ありませんが、宿主である人の体内への侵入を許すと、発病する場合があります。その際に重要となるのは、病原体の毒力と免疫力の?バランス?です。両者のバランスが取れていれば、感染しても発病しません。免疫が病原体の毒力に負けてしまうと、発病に至るのです。

 もう少し詳しく感染と免疫のメカニズムを、ウイルスを例に説明しましょう。栄養さえあれば増殖する細菌や真菌に対して、ウイルスは宿主の細胞を利用します。ウイルスの種類に対応した特異的な受容体を持つ細胞の表面に吸着して細胞内部に侵入し、細胞が自身のタンパク質を合成する仕組みを利用して、ウイルス由来のタンパク質が作られることで増殖します。
 これに対して免疫システムは、ウイルスの増殖を抑えようと、免疫細胞が、免疫を誘導するサイトカインの一種である「I型インターフェロン(IFN-α?β)」を出します。それがウイルス感染細胞の表面に結合すると、細胞内でのウイルスの増殖が抑制されます。また、同じく免疫細胞であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、ウイルス感染細胞を傷害して死滅させます。
 このような一連の免疫機構が?自然免疫?と呼ばれるもので、子どもから高齢者まで、誰にでも生まれながらに備わっています。

発熱は自然免疫が異物を排除しようとして起きる

 思春期以前の子どもは免疫力がそれほど高くありません。それにもかかわらずCOVID-19の重症者が少ない理由の一つとして、BCGワクチンやおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)ワクチンなど、各種のワクチンを接種していることが挙げられています。ワクチンは、それぞれの病原体の成分(抗原)を体内に入れて特異的な免疫(抗体)を誘導し、病原体を記憶して次の感染時に迎え撃つ?獲得免疫?を得るためのものです。ワクチンの中には抗原の他に、自然免疫を高める物質?アジュバント?が入っている場合があります。予防接種を受けた直後に発熱することがあるのは、病原体由来の抗原やアジュバントの作用によって免疫細胞がサイトカインを出し、免疫を誘導しているためです。サイトカインは免疫細胞の働きを高めるとともに、体温を上げる働きがあり、風邪をひくとウイルスを殺そうと体温が上がるのも、これと同じく自然免疫によってサイトカインが出ることによります。どちらも免疫が働いている証拠です。

免疫は?鍛える?ことでバランス良く働くようになる

 ここまでお話ししたように、感染すると自然免疫が働くと同時に、獲得免疫ができます。免疫が病原体の毒力に負けないバランスを保つには、免疫を?鍛える?ことが必要です。鍛えるというのは、獲得免疫の種類を増やすと同時に、さまざまな種類の免疫細胞がリレーのように免疫システムを動かす際の連携を良くするという意味です。幼児に土いじりをさせると丈夫に育つと言われるのは、土壌中に存在する多様な微生物を体内に取り入れることで免疫システムが鍛えられるためです。
大人も免疫を鍛えることは可能です。ただし、免疫系に疾患のある方や免疫力が低下した高齢者は別です。また、微生物には毒素を産生するものもあるため、注意が必要です。

 もう一つバランスに関して言うと、アレルギーを抑えるには、獲得免疫のうち、免疫細胞自身の働きによって異物を排除する?細胞性免疫?と、抗体を産生する?体液性免疫?のバランスが重要となります。アレルギーがある人は、両者のバランスが崩れ体液性免疫が異常に高く働きます。ヨーロッパの研究では、成人を対象に幼少期の生活習慣を調査した結果、牛舎でよく遊んだ経験を持つ人にアレルギーの発症が少なかったという報告があります。これは、牛舎で遊ぶことにより多くの微生物に感染することで幼少期に免疫が鍛えられ、両者がバランスよく働いているためと考えられます。BCGワクチンなど生きた菌を接種する生ワクチンにも、細胞性免疫を刺激してバランスを整える作用があり、この接種によりアレルギー症状が改善したとの報告があります。

食事?睡眠?適度な運動は、免疫力を高める有効な方法

 先に述べた免疫の鍛え方は高齢者には向きませんが、よく長生きの秘訣(ひけつ)として挙げられる食事?睡眠?適度な運動は、年齢を問わず免疫力を高める上で効果的です。バランスのいい食事をすれば、免疫細胞を活性化する物質や、細胞のエネルギーとなる物質を摂取できます。睡眠は体の働きをリセットするために不可欠ですし、ストレス解消には免疫の働きを抑えるストレスホルモンと呼ばれているコルチゾールの発現を低下させることが重要で、森林浴や笑いにはその効果が期待できます。また、笑うことでナチュラルキラー細胞(NK細胞)が増加するとの報告もあります。適度な有酸素運動も、ストレス解消と同時に、体温を上げ免疫細胞が働きやすい状態にします。このように食事?睡眠?適度な運動というのは、免疫システムが効率良く働くために最も有効な方法だと言えます。

 免疫力を高めるというと、COVID-19でよく耳にする免疫の暴走?サイトカインストーム?を心配される方もいるかもしれません。これは免疫力が高すぎることが原因ではなく、肺など全身のあちこちの細胞でウイルスが増殖したために、免疫細胞が一斉にサイトカインを出し、多量のサイトカインが組織にダメージを与えることで起きます。免疫力が弱い人でも、全身でウイルスが増殖すれば起こり得ることで、インフルエンザでも同様のことが見られます。これを防ぐには、体の中でウイルスを増やさないことに尽きます。大切なのは病原体と免疫との力のバランス。人の体は、あらゆる部位がバランスによって成り立っています。それがホメオスタシス(恒常性)です。

病原体が免疫を回避し、そのバランスが崩れ、発症に至るメカニズムを研究

 微生物学?免疫学を専門とする私の研究は、簡単に言うと感染症が引き起こされるメカニズムを解明して、新たな治療法を開発することです。これまでにも述べてきたように、異物の侵入に対して体は無抵抗ではなく、生まれながらの免疫によって排除しようと抵抗します。一方で病原体は、免疫に打ち勝って生き残ろうとします。COVID-19の場合、感染者の約8割が病原体の毒力と免疫力のバランスの取れた状態を保つことができ、残りの約2割が高齢や基礎疾患などの理由により、病原体の毒力に免疫が負けて発症します。
 こうしたことがなぜ起きるのか。そのメカニズムは病原体によって異なります。私は主にサルモネラ菌と非結核性抗酸菌を研究対象としています。

病原体であるサルモネラ菌から、免疫を高める物質を精製する

 現在は、この研究分野の延長線上で、?名城大学 新型コロナウイルス対策研究プロジェクト?に採択された?宿主の免疫力強化による感染予防に関する研究?にも取り組んでいます。免疫細胞には、免疫システムの中でアクセル役とブレーキ役を担うものがあります。アクセル役を果たす免疫細胞の働きを強める物質を開発し、免疫細胞にインターフェロンを出させてSARS-CoV-2がヒトの細胞内で増殖するのを抑制できれば、発病や重症化を予防できるのではないかと考えています。

 この研究アイデアのきっかけは、研究対象としていたサルモネラ菌が、免疫を活性化する物質を持つことを発見したことでした。これまでも、いろいろな病原菌が自然免疫を増強することが知られていました。これは病原菌に対するヒトの防御システムの一つです。サルモネラ菌が体内に入ると、菌体の表面に存在している線毛と呼ばれるタンパク質によって組織に付着し内部に侵入します。今回、線毛を構成している一部のタンパク質が自然免疫を誘導することを見いだしました。しかし、サルモネラ菌にとっては、この程度の免疫の誘導では排除されることはなく、逆にこの現象を感染の成立に利用していることが分かってきました。今回の研究は、この線毛タンパクを利用して、自然免疫を高めようというわけです。

 まずは目的のタンパク質を精製し、培養した免疫細胞に加えてインターフェロンが産生されるかを確認する実験を実施。その後はSARS-CoV-2に感染した細胞で同様の反応が起き、ウイルスの増殖が抑制されるかを確認し、さらに自然免疫を高めるメカニズムの解明にも取り組みます。また同じプロジェクトでは、天然物化学を専門とする薬学部の井藤千裕教授が、これまで発見した植物由来の多様な化合物を使用させていただき、これらの中から同様の効果を示す物質やナチュラルキラー細胞(NK細胞)を誘導する物質の発見に共同で取り組んでいます。

 最終的には、免疫力を高める物質を、感染初期や感染前にサプリメントのような形で安全に摂取できるようにすることが目標です。自然免疫を高めて発病や重症化を予防することが可能となれば、SARS-CoV-2にとどまらず、将来、未知のウイルスが現れた場合にも有効な対策となるでしょう。